病院という場所は、新しい命が生まれる場所であると同時に、別れの場でもあります。
私が手術室で勤務していた時の話です。
朝、ミーティングをしているとい、緊急手術の連絡が入りました。 「○○病院から緊急搬送があります。患者さんは21歳女性、名前は○○さん。昨夜の胸の痛みを訴え緊急搬送され・・・」
と担当医が患者の状態とどのような手術を行うのかなど、説明を始めました。 私は、患者さんの名前を聞いた瞬間、全身鳥肌が立ち、手足が震えて何も聞くことが出来なくなってしまいました。 その患者さんは私の看護学校の後輩、しかも同郷で以前から親しくしていた子だったからです。 驚きのあまり、返事も出来ずに青ざめた顔で立っている私に気が付いた担当医が、
「もしかして、知ってる子?」
と声をかけてくれました。 私が頷くと、そっと私の肩を抱き、
「そっか、ちょっと休憩室行こう。」
と促してくれました。 少し、休憩した後、担当医から
「やれるか?」
との質問があり、私は強く頷きました。
同僚の看護士や、心臓カテーテルの使用も考慮してメーカーのフェイスメディカル担当者に種類の選定などについてアドバイスを貰ったり、まずは、頭の中を看護師としての職務に集中させる為、いつも以上に気を使って準備をしました。
後輩は、残念ながら助かることができず、21歳の若さでこの世を去りました。実は、この経験があったことが今の仕事のトラウマとなっており、どうしても手術が怖いと感じてしまうため、小児科への移動を病院にお願いした理由でもあります。
小児科でも「死」は、身近で更に切ないものですが、元気なあの甲高い声と病気がウソの様に飛び回る姿は、無邪気でとても癒しになります。
シリアスな面ばかりが多い病院勤務ですが、稀に滑稽な事件も起こります。
その日は、ある手術をしていたのですが、その手術室に研修医が慌てて入ってきました。
「先生!あとどのくらいで終わりますか?」
と研修医が聞くと、ベテラン医師は
「うーん、もう少しかな〜。どうしたの?緊急?」
と聞き、研修医が背中に包丁が刺さった状態で救急室に運ばれてきた男性で、肺の損傷もありそうなため、今手術を行っているベテラン医の力が必要とのこと、また警察も介入しており、患者から刺した人物を聞き出そうとしても、
「自分で刺した。」
と言って聞かないということでした。 とりあえず、今、手が離せないので、直ぐに終わらせてそちらに行く旨を研修医に伝え、急いでこちらを終わらせたのですが、そのベテラン医が
「ねえ、どう思う?」
と言うので
「何がですか?」
と答えると
「女、だよね〜。」とニヤニヤされたので
「バレるとマズい女の人なんじゃないですか?」
と、他の看護師が言い、
「そう思うよね〜。」
と、ベテラン医師が返す場面がありました。
「自分で刺したことにするか〜。」
とベテラン医師は、笑いながら手術を終えて、その患者さんの待つ部屋へ向かっていきました。
自分で背中を刺したと言い張っていた患者さんは、病棟で奥さんの激しい質問攻めにあい、愛人に刺されたことを白状したとのことです。
結局、警察よりも怖いのは奥さんのほうだったようです。
命を預かる現場ですので日々落ち込んだり涙することも多いのですが、元気になっていく患者さんを見るのは本当にうれしく幸せな気持ちにしてくれます。これからも様々な経験を通じて、自分自身も成長していきたいです!
病院内には、各病棟だったり「病棟クラーク」という、医師や看護師の秘書的な役割をしてくれる方がいらっしゃいます。
女性病棟にいるクラークの方とは色々と業務上も絡むことが多く、日々、コミュニケーションを取っています。
女性病棟ということで、特に産婦人科の患者さんも多くいて、出産に関わる事務作業を行う他、他科の患者さんについては、家族構成や既往歴などの聴取、面会者への対応、患者さんからの電話番は勿論、各診療科からの問い合わせ、薬剤の確認、検査への呼び出し、ベッドの空き確認、病棟日誌の作成、新入職員の名札等の作成、各医療衛生品の発注、医師のシフト確認、患者さんへの病状説明の日程調整など、多岐にわたっての仕事がたくさんあり、忙しくなると患者さんの移動や案内なども行っていました。
一例をあげると、入院の手続きをするのに医事課と連絡を取り合います。
その後、病衣に着替えるためにリネン課にお世話になり、手術前の検査に、検査科や放射線科にも立ち寄ります。
入院ですので、当然食事がでるので栄養課とメニューの打ち合わせも必要です。
翌日に手術があれば、オペ室と入室時間などの確認があり、診療科だけでなく、麻酔科からの指示も病棟にあるので、ひとつの課に所属しながら、病院内のすべての科の職員と関わりがあることになり、私からみればスーパーウーマンです。
カテーテルなどの高度医療機器の販売などを行っているフェイスメディカル(http://www.pasonacareer.jp/search/company_code/80400920/)という業者さんなども出入りして情報提供や、術後の定期健診で機器が機能しているか患者さんや医師とのやりとりも円滑にできるよう対応します。
ひとつの連絡ミスが、患者さんだけではなく様々な課に迷惑がかかったり、手術も、所属科以外の意見も聞いたり、一人の患者さんの病気を治すために多くの人間が関わっていているのが当たり前ですが、それらの橋渡しは、このクラークの方が全て担います。
このクラークの方からお聞きしたのですが、産婦人科での出産の時、新生児は生まれてから退院までに名前が決まる子がほとんどですが、一見おとなしい印象のご両親が割と派手な名前をつけていたりするそうです。
外来では、患者さんの名前を呼ぶことが多いですが、いわゆるキラキラネームなどの名前があったりするとどの様に読めばいいのかと躊躇する事もあるそうです。
でも、10代の子で中絶をするためにやってくる子の場合、泣きながらやってくる子もいれば、冷静に反応する子もおり、本当に様々な人間模様が垣間見られるそうです。
また、入院の患者さんには、家族構成を伺うのですが、家族構成の欄に飼っているペットの名前を8匹全員分記入された患者さんがいたりと、直接的ではないのですが、それぞれの患者さんの人生の一旦が伺えるのが面白い部分だと言っていました。
個人的には、事務方で結構プレッシャーやストレスもあるのにいつも笑顔で対応するクラークさんには頭が上がりません。
忙しい中にも息抜きというか楽しみを見つける事ができるのは、本当に良いことなのだと思います。
これは、院長秘書をしていた方からお聞きした話です。
秘書課には女性職員が複数名おり、紹介状や報告書、議事録、資料作成、電話や来客対応など医療秘書らしいお仕事もありましたが、院長のプライベートに関わることもその業務のひとつとなっています。
院長の買い物などは、オシャレな院長だったので、銀座の仕立て屋さんでシャツを注文したり、化粧品の発注などからコンビニで買うタバコ、自宅で使用する血圧計などの電化製品等、範囲も量も大変多いそうです。
また、院長と外出をすることもあり、医師がたくさん集まる会合や会議のお手伝いなどもありました。
しかし、総合病院の院長よりも開業医の医院長の方が羽振りが良かったりするそうで、ある院長は大変なお金持ちで、車を3台所有しており、そのうち2台(センチュリーとロールスロイス)にはそれぞれ運転手がいるのです。
会合等では、他の病院の秘書の方と話す機会もあるらしいのですが、院長と外出し、業務が終わると院長をお見送りするのが当たり前で、秘書が頭を深々と下げ、車が見えなくなるまで頭を上げてはいけない、という決まりがある病院まであるそうです。
また、ある院長の場合、個性的過ぎてすぐに色々なことを提案するらしく、その中の一つとして院長のメタボ対策で毎朝ラジオ体操をすることになったのですが、ラジオ体操のことを「レディオエクササイズ」と呼んで、医院長としては、いいネーミングだと思っていたらしいのですが、やらされる職員や秘書としては、いい迷惑だそうで、結構愚痴を聞く事も多いのだそうです。
他にも
・娘さんのコンタクトレンズ購入
・娘さんの子宮頸がんワクチンの手配
・朝の秘書課の挨拶を敬礼にする
※これは、秘書課の職員の士気向上(?)が目的だったらしく、色々と指導した号令係が「おはようございます!院長先生に敬礼!」
と言って、秘書たちが敬礼すると、院長も敬礼をするという謎挨拶だそうです。
・朝の朝礼での「今日の目標の発表」などなど、医院長と言う絶対の権力を持つ方で、成功している方は、やっぱり「クセ」が強いらしく、それに従う秘書も「ストレスフル」な生活を強いられるそうです。
うちの病院の場合、そこまでではないのですが、どうしても「公私混同」と思われる様な指示があるのは事実の様です。
但し、コンプライアンスなど厳しい昨今なので、一般の開業医さんの様な事は「パワハラ」に当たる可能性もあり、ありえないのですが・・・。
しかし、この秘書さんは、ストレス解消を「カラオケ」でするので、本人曰く「無駄にカラオケで点数が取れるのが悲しい」と言っていました。
私が務める総合病院の場合、トップの理事長、院長から外科、内科のなどがある診療部門、検査や手術などを行う技術部門、お薬を扱う薬剤部門、私が在籍している看護部門、受付から会計までを行う事務部門と色々な部門が存在します。
そんな色々な仕事の中に、「臨床検査技師」という職業があります。
病院内では「検査室」が主な主戦場となり、主な業務としては、生理検査室業務で、心電図検査、24時間心電図の解析、呼吸機能検査、脳波検査、超音波検査、筋電図検査、神経伝達速度検査など、直接患者さんに接する仕事をされています。この部門の方は、医師と異なり言っては何ですが、あまり脚光を浴びる部門ではありません。
しかし、しっかりと当直もされるので、その際、心電図に加えて血液検査や生化学検査、輸血検査、細菌検査、病理検査などの検体検査も行い、検査の数値に緊急を有する異常があれば即座に医師に連絡し、適切な処置を促すこともします。
脳死判定チームにも関わる場合があり、脳死を疑う患者さんに脳波検査を行うことも業務の一つです。
また解剖業務もあり、病理医と一緒に臓器の状態や重さを調べたり、死因を調べるための病理検査を行うこともあります。
因みにこの「病理医」も中々脚光を浴びる事のない仕事ですが、テレビドラマとして「フラジャイル」と言うドラマで長瀬智也さんが病理医を演じて少しだけその存在が知られてきました。
その臨床検査技師の方から聞いた話として、印象的だったのが「心電図検査」の話です。
心電図検査は、身体に電極を当てて心臓の電気信号を見るもので、とても簡単に行うことができ、私も1年に一度は、検査をして貰っています。
この検査で大事なことは、「きちんとおとなしく寝ていてくれる」ことなのです。
心電図は少しでも動いたり力を入れると筋電図というものが混入してしまい、波形が読めなくなってしまいますので、できるだけリラックスして体の力を抜いてもらうのですが、どうもそれができない患者さんが中にはいるのです。
電極は、吸盤のようになっており、胸に六個の電極をつけますが、くすぐったがりの方にはまるで拷問のような時間らしく、もう一個目で大笑いしてしまう患者さんがいます。
なんとか全部つけ終わっても、くすぐったい状態が続いているのか笑いが止ます、病院の心電図室には三つのベッドがあるのですが、一人が大笑いすると隣の人にも笑いが伝染してしまうらしく、こちらももう笑うしかありません。
こういう患者さんは、手間がかかりますが、慌しく忙しい中にも、こういった面白い出来事があるというのは救いでもあるそうです。
確かに、聞き分けのない子供たちと言うのは、扱いが大変ですが、やっぱり笑い声を聞くと、泣き声や叫び声などに比べて格段にいい状態なので、どこか憎めないのはどの部署でも変わらないと感じました。
3歳の男の子がインフルエンザの予防接種を受けに来院した時のことです。注射することを嫌がっており、待合室で待っているときには大変泣き叫んで逃げようとしていました。診察室にも嫌がって入ろうとしないのでお母さんも困っていたのですが、看護師が
「注射をしなかったらバイキンマンが身体に入っちゃうんだよ?!私がバイキンマンだよ?!」
と男の子と戦いごっこのようなことを始めました。バイキンマンの役を演じながら男の子の身体をガッシリと掴み、注射を無事に終えました。男の子は注射した後は
「どうだ!バイキンマン!参ったか!」
となかなかの上機嫌でした。幼児なのでインフルエンザの予防接種は2回あるのですが、次月その子が来院したときは戦隊モノの剣を持参しており
「バイキンマン!かかってこい!」
と勇敢な姿を見せてくれ、またバイキンマン役の看護師にガッシリ捕まえられ注射を打っていました。
また体中に発疹が出たことで来院した7歳の男の子は、「お腹を見せてね」と看護師が言ってシャツをまくると、バラバラ?っと大量の砂がどこからか出てきてしまい、
「ズボンも少し下げさせてね」
と次にズボンを降ろすと、更に大量の砂が散らばり、もう医師も含めてみんな笑ってしまいました。お母さんは謝罪をしながら砂をかき集めていましたが、体調を崩しているわけではないので今まで外で遊んできたようですが、なぜあれほどの砂が出てくるのかと不思議でした。男の子は
「サッカーやっていたから・・」
と恥ずかしそうに言っていましたが、世の男の子のお母さんは大変だなあと思いました。
次から、やんちゃそうな男の子の診察時にはタオルを下に敷こうかと医師とも話しましたが、「何より外で元気に遊べれば良いよね」と笑い合いました。
2歳の女の子が発熱で来院した際、ちょうどイヤイヤ期なのか何をしても
「イヤ!」
と言って聞かず、
「お熱測ろうねー」「イヤ!」
「お口あーんして」「イヤ!」
の繰り返しだったので、ほとほと困っていました。そこで、若い男性看護師を呼んで来て代わってもらうと、みるみるおとなしくなり、「〇〇ちゃん(自分の名前)、やってあげてもいーよ」
と自ら体温計を脇にはさみ、真っ赤なほっぺたを更に赤くして大きなお目目でお利口に男性看護師の言うことを聞いてくれて、その様子が本当に可愛らしく、お母さんも抱っこをしながらくすくす笑っており、とても微笑ましい光景でした。しっかりお口もあーんと開けて医師に見せており、その際も男性看護師をちらっと見たりして、そのおしゃまな姿に診察室全体が温かい雰囲気になり、いつもは仏頂面の医師まで優しい表情になっていました。
病院は、色々な方が利用する場所、特に私が務める総合病院では、新生児の0歳からおじいちゃんおばあちゃんの100歳を超える方もいらっしゃいます。
私は、病棟、透析室、手術室など色々と経験して現在、小児科で勤務をしています。
小児科は、今まで居た部署と決定的に違うのは、思い通りにならないという事です。
大人であれば「我慢」と言う言葉が分かるのですが、子供たちはそんな事はお構いなしで、痛ければ痛いと言い、苦しければ苦しいと騒ぎます。良い点としては、早期に異常に気づけるのですが、反面、痛い、苦しいの基準が曖昧なため、さほどひどくない状態でも騒ぎますし、保護者としては、自分のことではない分、必死になる「親心」も分かります。
ある時、お腹の調子が悪いという事で診察に来られた4歳の男の子に医師が、まずは検査しましょうと、採血などの検査項目についてお母さんに説明をしていたのですが、
「お腹の中も見て見ましょう。」
と言われてから、男の子が目に見えて怯え出し、お母さんにしがみついてしまいました。
そうなると採血も出来なくなる為、安心させる為に色々と話をしたのですが、途中から
「お腹切らないで、痛いの嫌だ!」
と泣き叫び出してしまいました。
医師もお母さんも最初は呆けてしまったのですが、だんだんと状況が呑み込めてきたので、お母さんも含めて「超音波検査」について説明をしました。
お母さんもわが子が「お腹の中を見ましょう。」と言って、まさか、「開腹手術」まで連想するとは思っていなかった様でちょっと恥ずかしそうにされていました。
男の子は、注射も嫌いらしく腕に針を刺すものあんなに痛いのに、ハサミ(お腹を切るのがハサミと考えるところもカワイイです)でお腹を切ったら絶対に死んじゃうと思ったそうです。
その後は、普通に検査をしましたが、採血の注射もしっかりと泣かずに我慢していたので、本当にいい子だったのですが、どうしても泣き叫んでいた男の子と同一人物とは思えず、医師とも話をしてそれからは、どんな検査をするのか、決して痛くない(痛い場合もありますが)ことを先に話してから治療について話をしましょうという事になりました。
お子さんの場合、回復力も高いので本当にこの間まで病気だったのが信じられないほど、みな元気になってくれるのでやりがいもあります。
但し、元気すぎる待合室の子供たちにはほとほと手を焼かされますが。